はじめに
この記事は,統計・機械学習の数理 Advent Calendar 2025の8日目の記事である。
持橋大地・鈴木大慈 監訳「確率的機械学習 入門編I」のP124に,ベイズ統計や機械学習ではおなじみの事後予測分布 (posterior predictive distribution)の式
が出てきた。
果たして,この等式は自明だろうか?
ベイズ統計学において,よく見かける式は
であるが,
初学者がよく見る
と比べると,事後予測分布の式は変数が増えるため複雑に見える。
3変数以上を扱う式は事後予測分布の理解に必要であるため,本記事では,ベイズ統計における3変数以上の公式を整理し,事後予測分布の式を導出するまでの流れを説明する。
なお本記事で説明する内容は「公式」というより「応用テクニック」に近いものであるが,本記事中では便宜上「3つの公式」と表現する。
本記事で得られること(ベネフィット)
- ベイズ統計における3変数以上の公式が理解できる。
- 事後予測分布の式の導出方法が理解できる。
冒頭に本記事の内容を,チートシートとしてまとめる。
ベイズ統計における3変数以上の公式と事後予測分布
ベイズ統計における基本的な公式
同時分布と条件付き分布
確率変数
の同時分布(同時確率密度関数)は
で表される。
が与えられたもとでの
の確率密度関数を条件付き分布(条件付き確率密度関数)といい,
で表す。これを整理すると,
となり,これを
積の法則(product rule)と呼ぶ。
周辺分布
同時分布が与えられた下で,1つの確率変数に関する周辺分布(marginal distribution)は
で与えられる。
条件付き確率と組み合わせると,
となる。
周辺分布は,通常では確率変数の数を減らしたいときに用いる公式であるが,このように確率変数の数を増やしたいときに用いることもできる。
周辺分布と条件付き分布から,ベイズの公式
が得られる。
ベイズの定理は,尤度
と事前分布
から事後分布
を求めるときに用いる。
3変数以上の公式
以下ではベイズ統計における基本的な公式を用いて,ベイズ統計における代表的な3変数以上の公式を導出する。具体的には,
- 変数統合 : 複数の変数をまとめて,条件付き確率の式を使う。
- 変数固定 : 条件付ける変数を条件から外して,条件付き確率の式を使う。
- 変数消去 : 条件付き独立を用いて,条件付ける変数を消去する。
と名付けた3つの公式について説明する。
公式その1 : 変数統合
1つめの公式は,2つの確率変数をまとめて1つの変数とみなすというものであり,本記事では変数統合と呼ぶ。
■証明 :
のように変数をまとめると,
となる。
公式その2 : 変数固定
2つめの公式は,条件付けている変数を,式変形の前後で条件として与えるというものであり,本記事では変数固定と呼ぶ。
この式の構造は,通常の条件付き確率
と同じ形である。
■証明 :
(1)式の右辺は,
と変形できる。
この式の分子は,変数統合の公式を用いると,
となる。これを(2)式に代入すると,変数固定の公式が得られる。
公式その3 : 変数消去
3つめの公式は,条件付き独立を用いて,変数を1つ消すというものであり,本記事では変数消去と呼ぶ。
のもとで
と
が条件付き独立である,すなわち
であるとする。このとき,
となる。
■証明 :
変数固定の公式を用いると,
となる。ここで条件付き独立の式を用いると,上式の左辺は
となるので,
となり,変数消去の公式が得られる。

変数消去の公式は,条件付ける変数を消すときに用いることができる。
事後予測分布の導出
ベイズ統計における3変数以上の公式を用いて,「確率的機械学習 入門編I」のP123-124の事後予測分布の式を導出する。
確率モデルなどの設定
事後予測分布を導出するにあたり,確率モデルを設定する。これは,「変数消去」の公式において条件付き独立を用いるが,変数間の条件付き独立性を確認するためには,確率モデルが必要になるためである。
すなわち事後予測分布の導出は,単なる式変形ではなく,対象に対する洞察と仮定を必要とするものであると言える。
本書にもとづき,確率モデルやこれに関連する前提条件を整理する。
尤度
出力
は,入力
とパラメータ
から得られる条件付き確率だと仮定する。すなわち,出力
の確率分布は,
であるとする。
このようなモデルの例として,例えば
とした線形モデル
などが挙げられる。
このモデルを用いると,観測データ
に関する尤度は,
となる。
事後分布
パラメータ
の事後分布は,観測データ
を用いて求めることになる。すなわち,尤度と事前分布
から,ベイズの定理
を用いて計算する。
グラフィカルモデル
ここまでの情報をグラフィカルモデルで表現すると以下のようになる。
事後予測分布におけるグラフィカルモデル
事後予測分布の導出の証明
上記の確率モデルと,3変数以上の公式を用いて,事後予測分布を導出する。
まず,周辺分布の式を用いて,パラメータ
を登場させる。
次に,変数統合および変数固定の公式を用いて,
を固定して,
に関する条件付き確率の式を用いると,
となる。
そして確率モデルを確認すると,出力
と観測データ
は独立であるため,変数消去の公式を用いると,
となる。
さらに,パラメータの事後分布を計算した後に,入力
から出力を求めようとしているので,
と
も独立である。よって,
となる。
以上をまとめると,
となり,事後予測分布が求められた。
まとめ
事後予測分布を求めるために,ベイズ統計における3変数以上の公式として,
- 変数統合 : 複数の変数をまとめて,条件付き確率の式を使う。
- 変数固定 : 条件付ける変数を条件から外して,条件付き確率の式を使う。
- 変数消去 : 条件付き独立を用いて,条件付ける変数を消去する。
と名付けた3つの公式を説明した。
これらの公式を使うと,事後予測分布の式を説明することができるが,条件付き独立を利用するには変数間の関係性,すなわち確率モデルをきちんと定義しておく必要がある。
事後予測分布の導出は,単なる数式の変形なのではなく,確率モデルの操作であるということを理解したうえで計算を進めることが重要である。
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