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データサイエンスの核心を掴む : 学びと発見の記録

「入門確率過程」を読む ~第9章 確率積分と伊藤の公式 ①確率積分~

はじめに

確率過程は数理統計学の応用分野であり,製造業で扱う時系列データ解析ともかかわりがある。松原望編著・山中卓・小船幹生 著「改訂版 入門確率過程」は,確率過程に関する入門書としてロングセラーである。確率過程の基礎と応用を学ぶために,本書を読むこととした。


本記事は,「第9章 確率積分と伊藤の公式」における,確率積分に関する読書メモである。

第9章 確率積分と伊藤の公式―確率微分方程式

9.1 確率積分と確率微分

本章では,確率積分の説明からスタートし,確率微分方程式や応用例まで説明している。まずはランダム・ウォークやブラウン運動から

の順序で説明している。

9.2 積分微分

本節では,積分微分について復習している。

連続関数 f(x)について,積分


 \begin{align}
S(y) = \int_{a}^{y} f(x) dx \\ \\
\end{align}
で表される。本章ではこれを微分を用いて,

 \begin{align}
dS = f(y) dy \\ \\
\end{align}
と表す。

以後,微分積分をもとにした全微分形で表記する。

9.3 確率積分

標準ブラウン運動 W(t), t \geq 0で表す。

確率積分の定義

確率積分を定義するにあたり,

  • 分点系
  • 増分
  • 積和
  • 極限による確率積分の定義

という順で説明している。

分点系

まず, t \geq 0における時間を区切った分点系


 \begin{align}
\alpha \equiv t_0 \lt t_1 \lt t_2 \cdots \lt t_n = \beta \\ \\
\end{align}
を導入する。

増分

標準ブラウン過程における増分を,


 \begin{align}
\Delta W(t_k) \equiv W(t_{k+1}) - W(t_k) \quad (k = 0, 1, \cdots, n-1) \\ \\
\end{align}
と定義する。イメージとしては,株価の上昇・下落を考えればよい。

 W(t)は標準ブラウン運動であるため, \Delta W(t_k)はすべて互いに独立である。

また一般的なブラウン運動の定義(本書P162)より,


 \begin{align}
X(t_k) - X(t_{k-1}) \sim \mathcal{N}( \mu (t_k - t_{k-1}), \sigma^2(t_k - t_{k-1}) ) \quad (k=1, 2, \cdots, n) \\ \\
\end{align}
なので,標準ブラウン運動では

 \begin{align}
\Delta W(t_k) \sim  \mathcal{N}(0, (t_{k+1} - t_k) \\ \\ 
\end{align}
となる。

積和

分点系の各区間に数列


 \begin{align}
b_0, b_1, \cdots, b_{n-1} \\ \\
\end{align}
があるとき,積和

 \begin{align}
\sum_{k=0}^{n-1} b_k \Delta W(t_k) \\ \\
\end{align}
は,期待値が0,分散が

 \begin{align}
\sigma_b ^2 = \sum_{k=0}^{n-1} b_k^2 (t_{k+1} - t_k ) \\ \\
\end{align}
となるので,積和がしたがう確率分布は

 \begin{align}
\sum_{k=0}^{n-1} b_k \Delta W(t_k) \sim \mathcal{N}(0, \sigma_b ^2) \\ \\
\end{align}
となる。

極限による確率積分の定義

分点系を限りなく細かく下極限で,積和が I_bに2次の平均収束する,すなわち,


 \begin{align}
E \left( \sum_{k=0}^{n-1} b_k \Delta W(t_k) - I_b \right) ^2 \rightarrow 0 \\ \\
\end{align}
となるとき,

 \begin{align}
I_b = \int_{\alpha}^{\beta} b(t) d W(t) \\ \\
\end{align}
記号的に表す。

確率積分

●ブログ筆者コメント
通常の積分では, dxのように積分に用いる変数が出てくるが,上記の確率積分では dW(t)のように変数ではなく関数(確率変数)で出てきているのが特徴である。

確率積分の数学的性質

一般の f(t)に対する確率積分


 \begin{align}
I(f) = \int_a^b f(t) dW(t) \\ \\
\end{align}
にはいくつかの使い勝手の良い性質がある。

等長性


 \begin{align}
E \left( I(f) \right)^2 = E \left(  \int_a^b f(t) dW(t)  \right)^2 = \int_a^b (f(t))^2 dt \\ \\
\end{align}
が成り立つ。

正規性


 \begin{align}
I(f) \sim \mathcal{N} \left(0, \int_a^b (f(t))^2 dt \right) \\ \\
\end{align}
が成り立つ。

共分散


 \begin{align}
&Cov \left(  \int_a^b f(t) dW(t), \int_a^b g(t) dW(t) \right)  \\ \\
= 
&E \left(  \int_a^b f(t) dW(t) \cdot \int_a^b g(t) dW(t) \right) = \int_a^b f(t) g(t) dt \\ \\
\end{align}
が成り立つ。

●ブログ筆者コメント
略証では,積分を積和


 \begin{align}
\sum f(t_k) \Delta W(t_k) \\ \\
\end{align}
にしてから, \Delta W(t_k)の独立増分性および正規性を用いれば証明できるとの説明がある。

本節では明示的には説明されていないが,本書P160やP169では,

  •  (\Delta x)^2/ \Delta tの比を有限に維持する
  •  (dW)^2 = dtとおく

といった説明があるので,これを用いて \Delta W(t_k)から \Delta t_kへの変換が行なわれていると考えられる。

まとめと感想

今回は,「第9章 確率積分と伊藤の公式」における,確率積分についてまとめた。

第8章では,ブラウン運動には微分不可能性という性質があることについて説明がされていた。そのためブラウン運動では,微分よりも積分の方が扱いやすく,微分の定義も積分に基づく全微分形が用いられているのが特徴的だった。

また確率積分の定義は,積和の極限として表されているが,積分の書き方が特徴的であった。今後の章を読んでいく中で,確率積分の意味が理解しづらい場合は,積和の2次平均収束を思い出してみたい。

ブラウン運動の説明の際には,極限が存在する条件として,空間的な変化と時間的な変化の関係である「 (\Delta x)^2/ \Delta tの比が有限」ということが用いられてきた。実はこの関係式が,確率積分を導入する際にも用いられている,というのは,各章の話題のつながりを感じることができ,なかなか興味深かった。


本記事を最後まで読んでくださり,どうもありがとうございました。