映画「マネーボール」
データ分析関係者は,映画「マネーボール」を御存知の方が多いかもしれない。私はお盆休みに観たのだが,この映画の中で,組織におけるデータサイエンティストの振舞い方が興味深かったので紹介したい。
あらすじ
米国野球のメジャーリーグのアスレチックスは予算が少ない貧乏球団であるが,データを駆使した戦術を用いて戦っていく。1年間のリーグ戦のうち,前半は戦術が活かしきれず負けが続いてしまうが,後半は戦術が活き,途中20連勝するなど勝ちまくり地区優勝する,という痛快なストーリーである。
主な登場人物
- ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)
:主人公。アスレチックスのゼネラルマネージャー。チーム編成の意思決定権を持つ。 - ピーター・ブラント(ジョナ・ヒル)
:データアナリスト。イエール大学経済学部卒。データを駆使したチーム作りをビリーに提案する。もともと別の球団であるインディアンスに所属していた。
2人の出会いのシーンは,トレーラーの0:20あたりに出てくる。
印象的だったシーン:ボスとデータアナリストの邂逅
二人の出会いは,主人公ビリーがインディアンスに訪問し,選手を金銭で獲得しようと交渉するシーンであった。
最初ビリーは,インディアンスの偉い人(おそらくゼネラルマネージャー)に,「ガルシア選手が欲しい」と提案する。この偉い人は,ピーターとその上司の方をちらっと見て,彼らの話を少し聞いた後に,「ガルシアはノーだ」と答える。
この一連のやり取りを見ていたビリーは,若造のピーターの意見が,意思決定に効いていたことが気になった。そしてピーターのオフィスに立ち寄り,ピーターの考えを聞いた。ピーターは,「球団は,選手を買うべきではなく勝利を買うべきで,そのためには得点が必要だ」と持論を語った。
ピーターは得点に結び付く指標である「出塁率」に注目して選手を選ぶなど,数値に基づく選手評価をしていた。ただこのやり方は現状の球団では理解されず,肩身が狭い思いをしていた。ビリーはピーターの理論に興味を持ち,自分の右腕として彼を雇うのだった。
映画「マネーボール」にみるデータサイエンティストの振る舞い方
データアナリストであるピーターと意思決定者であるビリーのやり取りから,組織におけるデータサイエンティストの振る舞い方を考察してみた。
KGI・KPIにこだわる
ビリーが最もこだわっていたのは,アスレチックスの優勝であった。ピーターは,優勝のためには選手ではなく勝利が重要である,という考えのもと,必要な勝利数・得点数や失点数の最低ライン,更には得点につながる出塁率というKPIまで落とし込んだ。
このようにピーターは,意思決定者が重視する数値目標を理解し,そこにたどり着くまでの道のりを指し示すことで,説得力のある説明を実現していた。
更には,優勝というKGIをブレイクダウンし,出塁率というKPIにしたところも秀逸である。なぜなら,球団が選手を獲得しようとしたときに,「優勝出来る選手」を探すのは難しいが,「出塁率が高い選手」であれば,データから客観的に探すことができるからだ。組織の目標を,現場が動きやすい目標に変換することで,行動を変えることが可能になった。
意思決定者を巻き込む
アスレチックスは,リーグ戦の前半は勝てなかった。せっかく集めてきた選手を,試合に出る選手を選ぶ担当である監督が使わなかったのだ。
そのためビリーは,監督が使っていた別の選手を退団させ,自分が呼んできた選手を使わざるを得ない状況に追い込んでしまったのだ。ピーターには選手を退団させることは出来ないが,ビリーはゼネラルマネージャーの権限を発動させたのだった。
データ分析の目的は,意思決定支援である。データサイエンティストの分析結果を組織の行動に反映するには,意思決定者を巻き込む必要があるし,そのためにデータサイエンティストは,意思決定者に寄り添ったアウトプットを出すことが大事である。
もちろん,そんな簡単に周りに意思決定者がいるとは限らない。その場合でも,自分の周囲に良い影響を及ぼすことは重要だ。ピーターはインディアンスにいたときは,自分の直属の上司を巻き込むことで,インディアンスの意思決定者に影響を及ぼしていたのだ。
自分の考えを持ち,伝える準備をする
ピーターがアスレチックスに転職出来た理由は,たまたま声をかけてきたアスレチックスのゼネラルマネージャーであるビリーに,自らの持論・哲学をその場で説明出来たためだった。ビリーはたった数分の会話で彼の考えに感化され,ピーターを雇うことを決めたのだ。
ピーターは,前の職場であるインディアンスでは肩身の狭い思いをしていたが,たまたま訪れたチャンスをものにして,アスレチックスというよりよい職場環境を手に入れたのだ。
私は,データサイエンティストはデータ分析のスキルを磨き続けることが重要だと考えているが,スキルを活かすためにも,自分の考えを周りに伝える努力が重要だと感じた。
まとめ
映画の感想という形で,組織におけるデータサイエンティストの振る舞い方を考察した。この映画は,野球のプレーシーンが少なく,会話のシーンが多いのだが,とても面白かったので一度ご覧になることをお勧めする。