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JTCのデータサイエンス中間管理職の学び

「日本の人事を科学する」で人事にデータサイエンスを活用する #書籍紹介

中間管理職の仕事にデータサイエンスを応用したい

中間管理職になると,部下の業績や行動を評価をする,という仕事が増える。業績評価はボーナスに直結するし,行動評価は昇進に直結する。正しく評価をしていくためには,必然的に部下と向き合う時間を増やしていく必要がある。そのため,これまでのキャリアと今のキャリアの間に,ギャップを感じるようになっていた。

これまでの自分のキャリアであったデータ分析を,現在の中間管理職の仕事に活かしていくために,大湾秀雄 著 「日本の人事を科学する―因果推論に基づくデータ活用」を読んでみた。

www.kinokuniya.co.jp

 

本書の良い点 : ①生々しい人事の問題を題材にしている

本書の章立てを見てみると,

  • 女性活躍推進施策の効果をどう測ったら良いか
  • 働き方改革がなぜ必要か,どのように効果を測ったら良いか
  • 採用施策は,うまくいっているか
  • 優秀な社員の定着率を上げるためには何が必要か
  • 中間管理職の貢献をどう計測したら良いか

といった具合に,よくありそうな問題を題材にしている。

私が所属している企業はいわゆるJTC (Japanese Traditional Company)だが,人事部はかなり頑張っていて,時代に即したさまざまな施策を行なっている。私の所属しているIT部門でも,管理職であればこれらの施策の影響を少なからず受けるので,いずれも身近な話題だ。

 

本書の良い点 : ②因果推論に基づくデータ活用法が紹介されている

本書では,人事施策に関する評価を行なうための様々な数理モデルが提案されている。たとえば,採用した人の「評価」や「離職率」といった指標を,就職内定率,性別,勤続年数といった説明変数で説明する回帰モデルなどが提案されている。

さらに,単にモデルを説明するだけでなく,因果推論の観点から,評価の際に注意するべき点なども説明している。例えば第5章には以下のような問題点が紹介されている。

  • サンプルセレクション問題 : 評価情報は入社した人のものしか存在しない
  • 欠落変数問題 : 上記のようなデータを使うと,正しい相関が評価できない
  • 評価タイミングの問題 : 入社後のどの段階の業績指標を使うかによって結果が変わる

またこれらの問題点を指摘するだけでなく,章の後半にはその対策(ヘックマンの2段階推定法など)が紹介されているので,実際にデータ活用する際に参考になる。

 

感想 : まずはデータ取得と仮説出しが重要

人事データ分析に関する様々な課題と技法が紹介されており,とても参考になるが,実践しようとした際に一番の障壁となるのは,データがそろっていないことだと考えられる。

会社によっては,データ分析しやすい形でデータが蓄積されていないところも存在しうる。また,人事関連のデータはセンシティブなものが多い。そのため,業績評価や行動評価のデータは管理職しか触れることができなかったり,採用や離職に関するデータであればデータ閲覧がさらに制限される。

人事データを分析する際には,人事部門と相談し,データ蓄積の仕組みを導入したり,データにアクセスできるようにしてもらうなど,人事部門の巻き込みが重要である。また,他部門を説得するためには,データ分析ができた時のメリットを説明するための仮説出しも重要になってくる。